乾杯したい気分

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ちいさな夜の公園を通り抜けようとして急にスキップしたい気分。水銀灯の下で跳んでみた。足がもつれて、ばたりと倒れて顔が半分ほど砂に埋もれた。顔をあげると頬に砂つぶ。砂場に転んだようだ。砂の上に座りなおし周りをみた。誰もいなくて静まった公園の砂場だ。目のまえの砂の上に安っぽいプラスチックのコップがひとつ立っている。
ふうとため息をつく。町のざわめきが遠ざかる。水銀灯が一段と明るくなったような気がした。ふうともう一度ため息をついてコップを手でつかんで持ち上げる。砂つぶがついた空っぽのコップに光が透過する。大きくまるく明るい月、そうだ、今日はスーパームーンだ。プラスチックの底の向こうにスーパームーンが見える。
俺は一人だ。家族は縁遠く、恋人もいない。友達もいない。金もない。おまけに今日、会社をリストラされた。もう何もない。ああ、まったくの孤独。乾杯したい気分だ。スーパームーンに!
その他
公開:22/07/17 17:29

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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