トンネルの男

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 トンネルにいます。「人生がトンネルみたいなものだ」なんて言わないで下さい。トンネルは真っ暗ですが、人生とは違い、救いもあって、それは「トンネルは道の一部だ」という点です。わたしは迷っていますが、道を失ってはいないのです。
 トンネルは、かつて誰かが明確な意思をもって掘り抜いたのです。それは、どこかとどこかとをつなぐためだったに違いありません。それがどこなのか、わたしには分かりませんが、トンネルがあるということは、その外があるということなのです。だからわたしは、当面、外に出るために歩き続ければいいのです。
 トンネルは通過するためにある。
 これはとてもシンプルな考え方だと思います。
 人生はそうではないでしょう? 人生は通過するためだけにある、なんて寂しいじゃありませんか。人生は変化の連続で、それが愛おしかったりするのです。トンネル通過中に変化なんて求めないでしょ?
 そういうことです。
その他
公開:22/07/17 09:03
シリーズ「の男」

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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