つめたい店

店には誰もいない。床に黒と白の格子模様が斜めに走る。中央に大きなショーケースがどんと置かれている。ケースの金属フレームが光って、ガラス越しに商品が整然と並ぶ。近づいてみると店内に靴音だけがひびく。振り返ると壁面ディスプレイにデジタル数字が点滅する。ショーケースの照明がじゅうぶん明るい。なかに変哲のない皿が一枚。取り出して手のひらにのせると意外に重い。人差し指で皿の中心を支えてまわすとくるくるとまわった。皿がまわると壁面のデジタル数字が変化するのに気づいた。数字の点滅がリズミカルに大きくなる。デジタル数字は何かの数列に従うように不連続な大きな数字になってゆく。数字が点滅をやめるまで皿をまわしていようかと思ったが、やめにして店を出た。
街路に誰もいない。立派な建物が続く高級商店街に一人も歩かず、一台の車も見かけない。まるで地球最後の日のようだ。あるいは最後の日の翌日かもしれない。