地図の読めない人々

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近頃の連中は地図もロクに読めないそうだ。本来、地図とは自分の現在地を確かめ、目指す目的地との位置関係を探る道具だったはずだ。ところが、今では地図そのものが音声やスクリーンで人間を目的地まで誘導してくれるようになった。進化と言えば聞こえはいいが、年老いた私から見れば人間が地図の言いなりになっているようにしか見えない。
「おじいちゃん、地図が読めると何かいいことあるの?」
私の独り言をそばで聞いていた大学生の孫が言った。
「自分の中のセンサーを研ぎ澄まし、目印になるものを見つける能力を鍛えられる。例えば角のラーメン屋に右折のサインを見つけたりな」
「そんなの全部、地図が勝手に教えてくれるよ」
「いいかい。大事なのは自分なりに考え、そこに意味を見出す。これが人生にも生きてくるんじゃよ」

むしろ恐ろしいのは何も考えないまま目的地にたどり着くことだろう。そんな人生に一体どんな意味があるというのか。
SF
公開:22/07/19 23:37
更新:22/07/19 23:40
地図 現代 テクノロジー

アカサカ・タカシ( Chicago )

2022年から米国シカゴ在住。

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