蝉泣く時雨

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季節外れの蝉の鳴き声がしていた。その蝉は、秋の末から冬の初めに訪れる時雨の時に泣いていた。夏は随分と前に過ぎており、仲間達は皆すでにいない。
ミーン、ミーン。
一人寂しく鳴き続けるその蝉は、誰かを待っているのか。誰かを呼んでいるのか。あるいは、自らの死の時が近くて怖くて泣いているのか。分からない。ただただ時雨の中、鳴いている。
一人の子供がやってきた。蝉を見つけて驚いた表情をしている。父親に蝉を飼いたいというと、父親はダメだと言った。数日で死んでしまうから。だが一日だけ飼って逃がしてあげるという約束で蝉を飼う事にした。それから一日。少年は蝉とひと時も離れることなく一緒に過ごした。少年は季節外れの蝉にずっと話し続けた。
そして蝉を逃がしてあげた。蝉は数日後、息絶えた。最後に少年と過ごした一日は、蝉にとっても大切な一日だった。

蝉泣く時雨の時の中、輪廻転生し、再び少年に巡り合えますように。
公開:22/07/19 08:31

富本アキユ( 日本 )

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