ウォークインクローゼットの男

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 ウォークインクローゼットから出られない。恐らくランニングインしたせいだろう。ウォークインと命名された小部屋に、それ以外の方法でインしてしまった際の、緊急脱出方法が部屋のどこにも記されていないのはPL法違反なので、わたしは訴訟を起こしたいのだが、あいにく手ぶらで駆け込んでしまったせいで外部との通信手段がなかった。
 意を決して、体当たりして扉をぶち破ったこともあった。だが、その扉の向こうは別のウォークインクローゼットで、そこにランニングインしたことになってしまい、結局は、元の木阿弥だった。
 ここでは、私だけが着る側にいる。この事実に気づいた時、わたしは愕然とした。着られる側に立つ服たちが、この全裸の私を黙って見ているはずがないからだ。
 もし隙を見せれば、私は服らに徹底的に着せられてしまうだろう。
 だから私は床に伏せて息をひそめている。そして、十月の衣替えの瞬間をじっと待っているのだ。
その他
公開:22/07/16 22:06
シリーズ「の男」

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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