山羊は啼く

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「農園を拡げようと思うんだ」

「裏の森を伐採して?」

「うん、そのつもり」

 果物農家を親戚から譲り受けて5年になる。東京で働いていた頃とさして変わらない忙しさではあったけれど、緩やかな時の流れに癒やされながらの日々の営みは、都会では味わえない充実感を与えてくれる。

「反対ではないけど、山羊はどうするの?」

「何処かに引っ越してもらうしかないね」

裏の森には山羊が1頭棲んでいる。親戚が暮らしていた頃、いつの間にか棲み着いたらしい。実際に目の当たりにした山羊は、牛かと見紛う程の大きさだった。一瞬怯んだが、首に縄を巻いて引くと、大人しくついて来る。軽トラで1時間も走っただろうか。海辺に沿って広がる森へ、山羊を放してやった。
帰路、妻と私は無言だった。お互い言いたいことはわかっていた。
帰宅し、茶の間の灯りを点けると、部屋の真ん中にあの山羊がいた。
「弁えろ」と、山羊は小さく啼いた。
ホラー
公開:22/07/11 22:28

都忘( 東北 )

沈思黙考

 

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