その魚は小さな夢を見る

海は広い。とてつもなく広くて、僕は世界のほとんどの割合を占めるこの海を自由自在に泳ぎ回ることが出来る。でも時々、思う事があるんだ。

「陸ってどんなところだろう」

僕は魚だ。陸に上がってしまうと死んでしまう。でもこの目で陸がどんなところなのか死ぬ前に見てみたい。そう思っている。幾度となく、海の中では冒険を繰り広げてきた。海面ギリギリまでいくとイワシの群れを見つけたり、太陽の光が照り付ける。あ、そうそう。人間も見た。スキューバダイビングっていうやつらしい。逆に底までいくと次第に光は当たらなくなり、漆黒の闇が広がっている。あまりにも深い所へは行けないけど、時々深海からやってきた魚がいる。顔がとんでもなく不細工で、僕の顔はあんな風にならなくて良かったなと思った。あんなところに美味しそうなオキアミが泳いでいる。僕は勢いよく食らいついた。そして始めて陸を見た。そうか、釣られたのか。でも後悔はない。