友は理論じゃ作れない

理論上、完璧な受け身をとることができたならば、建物の3、4階くらいなら、人間は無傷で済むという。
無傷は言い過ぎだろう。かすり傷程度は負うだろう。骨に罅が入ったくらいだって、大したもんじゃないか。そもそも、誰か実際にいるのか、そんなこと試す人。
いたのだった。僕の親友、やっちゃんは、理論マニアとでも言おうか、理論狂とでも言おうか、とにかく口を開けば、理論上が枕詞になる程に、理論を崇拝していた。そんなやっちゃんは、中学に入学すると、柔道部に入部した。何処で仕入れたのか。やっちゃんは、得意気に僕に話してくれたものだ。

「理論上、あくまで理論上だけど、完璧な受け身は最強の防御なんだって」

「試さずにはいられなかったんだ」

やっちゃんは照れくさそうに言った。僕は笑えなかった。世の中は時が経てば、笑って話せることの方が多いと思いたい。

「笑ってくれよ」

今日も１人、やっちゃんに献杯をする。