暴力疎外

　A国の宰相、ジョン・コールが凶弾に倒れた。それはパレードの最中の出来事であった。
　ジョンの死は、対立していた党の議員や、彼の徹底した棄民政策により虐げられていたはずの国民や、決して友好とは言えない近隣国にまで大きな衝撃を与えた。
　ある者は深く敬愛していた宰相の死として、ある者はただ漠然と一人の人間の死として、どのような理由であれ、多くの者が一様に彼の死を悼み、平和と民主主義を愚弄する行為に怒った。
　しかし、その中でジョンの熱烈な新派だけは違った。
　ジョンの死後、新派は半日も経たぬ間に追悼の言葉もなしに「犯人はH人かZ人で、これは敵対勢力による赤色テロである。我々は単一民族による統治の元、秩序を取り戻すため、隣国を打倒する必要がある」と強く喧伝し、平和であったはずのAの地に新たな恐怖と憎悪を振りまいたのであった。