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 すまんのおと爺は言った。誘拐してすまんのお。俺の身体は何故か唾液に塗れていた。
「月へ行ってほしくなかったのじゃ。儂はあれを愛しておるから、他のもんが土足で踏み入れるのが何より許せんのよ」
「いや。仕事なんで」
 職業柄、こういう事態は予測しているものだ。呆然とする意識を手放し、体格差を武器に無我夢中で変態を取り押さえた。警察はすぐに来てくれた。
「イヤッ! 月へ行くことは絶対に許さん!」

「……ってことがあってさ。大事な時に迷惑なんだよな」
 ワア。仏人のバディはマニュアルを宙空に放り投げ、目標地点を指差した。
「彼女のファーストキスを奪ってやろうじゃないか」
 
 月面に到着した3時間後。さてどこで人類初の月面キスを遂行しようかと下らない考えに浸っていると学者連中を中心に船内が俄に騒ついた。
 クレーターから微量の白い液体が抽出されたらしい。船長は神秘の水だとしきりに頷いていた。
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公開:22/07/05 18:55

八戸 思隠( 北陸 )

はちのへ しおん です。
岡上淑子さんのコラージュ作品が好きです。あのような雰囲気の短編を目指しています。作成したアイキャッチはこちらで公開しています。
https://www.instagram.com/kureisi_collage/?hl=ja

 

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