短冊に願わずとも

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 質の悪いイヤホンを挟んでずいぶんと擦れた声になった君が言う。
「今年は織姫様と彦星様、会えそうにないねー」
 カーテンでは遮れなかった雨音に埋もれるようにして「一向に日程の合わない私たちみたいだよね」と明るく付け足された。
 七夕の夜。インターネットの大河で出会った君とオンラインゲームに興じる時間が静かに流れていく。
「あー、でもさ」
 思わず操作の手を止め口を挟んだ。
「雨が降ると天の川の水嵩が増すから渡れないって話だけど、そもそもベガもアルタイルも天の川銀河の一部らしいよね」
「だから……?」
 科学の発達で解明された事実だ。地球だって天の川銀河の中の一つの星でしかない。
 科学の発達で発明された技術だ。こうして知り合って、なんの気無しに通話を繋げられているように。
 雨が降ったって。距離があったって。現代では短冊に願う必要すらなくて。
「だからきっと、いつだって会えるよ」
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公開:22/07/07 20:12

ぴろしき

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 @yosisige

上記アカウントにて駄文を垂れ流しているインターネットポエム揚げパン。
にほんご、すき。

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