砂漠の七夕

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年に一度の再会の日、七夕。雨が降ると天の川が氾濫し、会えなくなる彦星と織姫は砂漠の夜空に移住し、毎年、確実に会えるようになった。
郷に従い、髭を蓄えた彦星は牛の代わり駱駝を連れ、織姫は黒髪と白皙の肌をスカーフで覆った。

聖地エルサレムに建つ岩のドームの黄金色を彷彿とさせる月。かつてアラビアのローレンスが夜営のさなか、『千一夜物語』に思いを馳せながら仰いだだろう、この情景の中で、彦星が吹く『月の砂漠』の口笛だけが果てしなく谺する。
「ロマンチックね!」
織姫の吐息で、星たちが揺らめき輝く。

勿論、軒端に揺れる笹の葉などは見当たらないのだが……
いじらしい願いが込められた短冊、健気な歌声、天の川を見上げ安堵する優しい笑顔たちが懐かしくてならない。七夕の日を指折り数えては、不安な眼差しを雨空に向けていた日々ですら愛おしい。

やがて、どちらからともなく、
「やっぱり日本の夜空へ帰ろうか……」
ファンタジー
公開:22/07/03 22:03

痩せがえる

遅筆のため、週に一作できればと思っています。どうか、よろしくお願います。

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