父の常備薬

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ポチが死んだ。
ポチは僕が生まれる前から家にいた。
そのポチが死んでしまった。
僕は泣いた。母も泣いた。
家族皆が悲しみに包まれる中、父だけは眉一つ動かさず、ポチの遺体を庭に掘った穴に埋めた。
体の強くない父。ゴホゴホと咳をしながらポチを埋める。
お父さんは悲しくないの?と、聞きたかった。でも聞けない。
「悲しくない」と、答えられたら僕はきっと父を一生軽蔑する。
父は咳止めの薬をいつもより多めに飲むと「疲れたから休む」と言って部屋に戻った。

数時間後、父の部屋からすすり泣く声が聞こえてきた。
心配になった僕は父の部屋の扉に手をかけ…母に止められた。
「お父さんね、ずっと堰止めを飲んで我慢していたの」
堰止め?
「男は簡単に泣いちゃいけないって、涙を止める堰止めをお爺ちゃんから渡されているの」
扉の向こうでは父が堰を切ったように泣いているのだろう。
僕の父は強くて立派な人だ。
公開:22/06/29 21:07

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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