消印旅行

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私の妻は旅行誌の記者で、プライベートも旅から旅の連続だった。出不精な物書きの私は家で留守を預かる事が多く、世間一般の夫婦に比べ、共に過ごす時間は短かったと思う。
寂しくなかったと言えば嘘になるが、旅先からはよくポストカードが届いた。
白紙に宛名だけ記されたそれには、決まって風景印が押してあった。各地の風物を織り込んだ消印で、仕事以外では筆不精な彼女の精一杯だったのだろう。
風景印を眺めながら、36ミリに凝縮された彼女の足跡を、私も想像で追いかけた。帰宅した彼女と答え合わせをする時間もまた、会話で辿る二人の旅だった。

彼女が天国へ旅立ったのも、やはり取材の道中だった。
私は初めて自分の足で長旅をし、ただいまを言う顔で眠る彼女の亡骸を連れて帰った。


今も時折、郵便受けにカードが届く。
不思議な風景と文字で織られた印を傍らに、まだ見ぬ天上の地へ想いを馳せつつ、今日も胸の内の彼女と旅をする。
青春
公開:22/06/27 13:54
月の音色 月の文学館 テーマ:スタンプカード 朗読採用いただきました。

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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☆SSGと皆様のお陰で生まれた本たち
短編集『ショートショート・アソート』Ver.0~5
選集『花神の庭』
詩集『君に伝えたかったんだ。』

ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.9参加中

第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版

いつも本当に、ありがとうございます!

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