色褪せた煙草

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 彼女が煙草を吸う姿はいつでも様になっていた。
 すっかりと日に焼けた畳敷きのワンルームに腰を下ろし肺へと煙を溜め込む彼女はいつもどこか遠くを見ていた。
 いつの間にか住み着いた女だ。
 飲み屋街で拾って、気づけば同居人になっていた女だ。定職についている気配もなく、時折せびられる小遣いはどうやら煙草代に消えている。
 暗闇に沈んだ室内。湿った万年床で手を伸ばせば拒絶の気配もない。顔は若く見えるが、肌の張りがないあたり実は三十は過ぎているのかもしれない。
 そんな刹那的な感慨も、いつのまにやらずいぶんと色褪せた。
 くすんだ灰色の墓石へと無感情に手を合わせ、線香がわりに彼女の好んでいた煙草へと火をつける。いまはもう名前も変わってしまったし、値段も膨れ上がったのだと知った。
 病で早逝した女のかわりに煙草の煙で肺を満たし、無様にも咳き込む。
 ――ああ、やっばり。
 俺には様にならない。
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公開:22/06/22 22:46

ぴろしき

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 @yosisige

上記アカウントにて駄文を垂れ流しているインターネットポエム揚げパン。
にほんご、すき。

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