熱帯夜の魚

2
4

 私は残業を終えてオフィスビルのエントランスを抜けた。冷房に慣れた体をむわっとした空気が包み込む。今日はいつにもまして湿度が高く、なんだか空気がとろりとしているような印象を受ける。

「これなら、いけるかな?」

 私はそうつぶやくと、靴とくつ下を脱いで裸足になる。そしてそっとアスファルトを蹴りだし、熱帯夜の空へと泳ぎだした。

 体を波打たせ、力強く湿気を蹴って、私はゆっくりと高度を上げていく。やはり湿気だけだと雲の中より泳ぎづらいな。苦労しながら泳ぎ続け、周りの建物をすっかり追い越したころ、私は泳ぐのをやめた。脱力してかすかな浮力に身を任せる。今の私はジャケットの裾を風にそよがせ、手提げを抱えて宙に浮かんでいる。いつものことながら場違いな格好だ。夜景をバックに浮かぶ自らの姿を思い浮かべ、思わず笑う。

 さあ、結構風に流されてしまった。私はまた泳ぎだし、家へと潜っていった。
ファンタジー
公開:22/06/26 10:50

uni6-ゆにむ-( この世 )

友人に誘われて初めました。
練習として書いた作品の供養をしようと思ってます。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容