衣錦夜行

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 故郷への道中、蛇から助言を受けた。
 親御さんに会うならもっと立派な服を着た方がいいですよ。
 蛇は自らの皮を剥いで寄こしてくれた。すると皮は見事な錦衣へ変化し、夜空に勝るほどの煌めきを帯びた。
 朝方、生家に着くと懐かしき父母は息子の出立ちを見て歓喜した。「よくぞ立派になった。出世したのだな」と。
 生家で余暇を過ごし、来た道を折り返して行く最中、衣を蛇に返そうと思ったが見つからなかった。あの後死んだのかもしれない。
 しばし考え、衣は呉服屋に売ることにした。まとまった金でまず、仕事道具を新調し、革靴も職人が作った丈夫で疲れにくいものに替えた。近頃、折り合いが悪い親方のために酒を買い、鶏卵を数個草叢に供えた。最後に茶屋に入り、蜂蜜入りの茶と豆菓子を喉に流し込んだ。
 明日からまた仕事が始まる。今度帰郷する時には自分の錦を拵えて行こう。
ファンタジー
公開:22/06/26 10:14
更新:22/06/26 10:17

八戸 思隠( 北陸 )

はちのへ しおん です。
岡上淑子さんのコラージュ作品が好きです。あのような雰囲気の短編を目指しています。作成したアイキャッチはこちらで公開しています。
https://www.instagram.com/kureisi_collage/?hl=ja

 

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