浪人と朝顔

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「わしゃ、脱藩することに決めた」
「本当でございますか」
「同志はすでに脱藩しちょる。志を遂げるには脱藩しかない」
「いやっ、いやでございます」

脱藩は重罪である。死罪になることもあり、血縁者が罪に問われることもある。

「今生の別れじゃ。これをおまえにやろう」

手渡されたのは花の種であった。女は伝えたいことが山ほどあるが涙が溢れ言葉にならない。

「では、参る」

そう告げると森の中に消えた。

女は男から授かった種を蒔いて大事に育てた。咲いた花は朝顔であった。朝顔は枯れても種が残る。種を蒔けばまた朝顔が咲く。女は朝顔を見ながら男を思い出していた…


「脱藩した奴が捕まったらしいのう」
「ああ、捕まった奴の袴には朝顔の家紋がはいちょったらしい」
その他
公開:22/06/19 23:28

ひろいてん

面白そうなので参加してみました。

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