記念の一皿

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「素敵ね」
 金縁の皿に盛られた私を見る貴女の方が素敵だ。貴女が「素敵ね」と言ったから今日は――。
 いや、止そう。貴女が幸せであるならそれでいい。幸福そうな貴女にこそ、私はこの一瞬で惹かれたのだから。
「美味しい……」
 皮が引き裂かれる。優美にカトラリーを操る手の技量。トラッドな蝋燭の灯に映える髪。どれも良いけれど、やはりその声をいつまでも聴いていたい。
「喜んでくれたかい?」
「ええ、とても」
 脚の筋が切開される。対岸の貴方、どうかもっと話しかけて。彼女を幸せにして。私が細切れになってしまう前にもっと、沢山。
「こんなに素晴らしい食卓は初めて」
 私は決して美しい者ではないけれど、そして最後の一切れとなっているけれども、貴女に沢山褒められたから幸せ者だ。結婚記念日おめでとう。
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公開:22/06/21 22:41

八戸 思隠( 北陸 )

はちのへ しおん です。
岡上淑子さんのコラージュ作品が好きです。あのような雰囲気の短編を目指しています。作成したアイキャッチはこちらで公開しています。
https://www.instagram.com/kureisi_collage/?hl=ja

 

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