アジールの幌

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 藻魚の如き暮らしが終わったのは、パン種が尽きそうだという理由で使いを頼まれたからだ。行先は砂嵐を抜けた先の城壁がある町——異端が踏み入れぬ聖域(アジール)だった。
 住処だった洞穴の入口を振り返ると魚模様の幌が激しく棚引き、もう帰ってくるなと言わんばかりだった。
 町へ入ると衛兵に拘束され、牢に繋がれた後、三日経たぬ内に私は猛獣に喰われて落命した。
 それでもパン種を持って帰らねば。私の聖域に。鋭い日差しが降る朝、私は土の中から覚醒した。猛獣が砂だらけの私の顔を舐めていたのだ。「償いが叶うならばどこまでも付き添いましょう」
 町の様子は一変していた。城壁は消え、軒先では異教の徒同士が香ばしい黒い飲み物とパンを楽しんでいた。その団欒が眩しくて逃げるように猛獣の背に乗って駆けた。砂漠中を旅した。魚模様の幌は見つからなかった。
 以来、パン種を何処へ持って行けばいいのかずっと考えている。
その他
公開:22/06/16 21:45

八戸 思隠( 北陸 )

はちのへ しおん です。
岡上淑子さんのコラージュ作品が好きです。あのような雰囲気の短編を目指しています。作成したアイキャッチはこちらで公開しています。
https://www.instagram.com/kureisi_collage/?hl=ja

 

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