318.置き土産

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「ねぇ隣の家の人って独り暮らしだよね?」
私は母に聞いた。
「そうよ、老夫婦で先月おばあちゃんが亡くなったでしょう」
「やっぱりそうだよね…」
(でも会話が聞こえるんだよなぁ…)
そう思いながら数日過ごしていた。朝夕は涼しいので夕方窓を開けていると隣から
「夕飯は焼き魚だよ」とか「緑茶でいいかい?」とかおじいさんが話しているのが、微かだが確かに聞こえてくるのだ。
そんなある日、親戚から梨を沢山送ってもらったのでお隣にお裾分けしに行くことになった。
チャイムを鳴らし、出てきたおじいさんに思いきって尋ねてみた。
「あの…時々会話がこちらまで聞こえてくるんですけど今はお一人ですよ…ね…?」
そう言い終わらないうちに、あははと笑って彼はピアノを指差した。
「ばあさんの置き土産なんだけど、鍵盤に声を入れておいてくれたんだよ」
そう言うとピアノのキーをひとつ叩いた。

「はいはい、それでいいですよ♪」
ファンタジー
公開:22/06/14 15:29
更新:22/06/14 15:33

ことのは もも。( 日本 関東 )

日本語が好き♡
18歳の頃から時々文章を書いています。
短い物語が好きです。
どれかひとつでも誰かの心に届きます様に☆
感想はいつでもお待ちしています!
宜しくお願い致します。

こちらでは2018年5月から書き始めて、2020年11月の時点で300作になりました。
これからもゆっくりですが、コツコツと書いていきたいと思います(*^^*)

2019年 プチコン新生活優秀賞受賞
2020年 DJ MARUKOME読めるカレー大賞特別賞受賞
2021年 ベルモニー縁コンテスト 入選

 

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