紙の牧羊犬

一枚の紙がある。
折れば何でも具現化できる不思議な紙だ。ただし、水に濡れると溶けてしまうから要注意だ。
うちは羊飼いだから、牧羊犬を折ることにした。昨日、亡くなった犬のように逞しい犬がいいな。そう願いを込めて折った。出来上がると、紙はみるみる具現化し、先代の生き写しのような犬が目の前にいた。仕事ぶりも癖も全てが生き写しだった。
家族は大いに喜んだ。
ある日。羊が一匹逃げ出した。犬は野山を駆け回り、ようやく見つけてくれた。その帰り道、雨が降りだした。僕は急ぐように犬を呼んだけれど、犬は疲れている羊の歩幅に合わせて歩いた。そうして家に着いたとき、犬は半分溶けていた。それでも、はぐれていた羊が群れに戻ったのを見届けると、安心したような顔をして、その場に立ち尽くした。雨はどんどん激しくなる。犬は凛とした顔で僕を見つめた。僕も犬を見つめた。やがて犬は、穏やかに土に還っていった。