死神と蝙蝠傘

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 夜半、貴女(きじょ)が訪ねて来た。四匹の蝙蝠傘を引き連れて。
 貴女は礼儀正しく外套を脱ぎ、自身の腕に掛けた。
「衣掛けをお貸ししますが」
「結構ですわ」
「では傘立てを貸しします」
「それも結構ですわ」
 蝙蝠傘は生き物の如く勝手に翼を畳んで貴女の腕にくるんとぶら下がった。その珍妙に目が離せない。
「何故わたくしが来たのか分かりますね? 四秒で支度をなさい」
 いいなあ。
「まあ、殿下が持っていけるものは本当は何もないのですが」
 何と愛くるしい。一匹欲しい。
「呆けてると釘犬に喰われますから、早くこの傘に掴まりなさい」
「その子、僕に?」
「ええ。この傘に掴まって行くのです」
 蝙蝠傘の一匹が男の腕にちょんと足を掛けた。新しい主人の機嫌を窺うようにゆらゆら揺れている。

『ありがとうございます! 一生大事にします!』

 先代当主の来世のお相手はどんな方だろうと使用人達は噂した。
ファンタジー
公開:22/06/13 07:35
更新:22/06/13 12:42

八戸 思隠( 北陸 )

はちのへ しおん です。
岡上淑子さんのコラージュ作品が好きです。あのような雰囲気の短編を目指しています。作成したアイキャッチはこちらで公開しています。
https://www.instagram.com/kureisi_collage/?hl=ja

 

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