雨天・予感

0
2

 北の町には雨がよく降る。雨が降れば人々は蝙蝠傘を取り出す。
 食堂の上階、通りに面する席に運良く座れたため、黒い花が咲いて連鎖する光景を目の当たりにできた。そして偶然にもサラリーマン達の帰宅時間だったため、その景色は圧巻の一言に尽きた。
「あの都市の名前...バグダード...だったかな」
 彼女は眉を歪めながら古都の名前を口にした。捨てられた本の印字が水に染み出して作られた黒。無惨な終わり方をしたあの町の川は最初黒に染まり、その後死んだ住民の血で赤に染まったと彼女は語る。確かに傘でごった返しの通りは黒い濁流にも見える。あれ...でも、本なら後からでも処分できるな。
「川は最初赤に染まって、その後で黒くなったんじゃないか?」
 僕の反応がまずかったのか彼女は身震いした。
「そういう話じゃないの。ほら、お茶のおかわり呼んで」
 天候は回復しない。雨宿りを続ける他なさそうだ。
 
 
 
その他
公開:22/06/12 20:15

八戸 思隠( 北陸 )

はちのへ しおん です。
岡上淑子さんのコラージュ作品が好きです。あのような雰囲気の短編を目指しています。作成したアイキャッチはこちらで公開しています。
https://www.instagram.com/kureisi_collage/?hl=ja

 

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容