バラと万年筆

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良い道具は自ら持ち主を選ぶと言う。
長年高級文具店なんてやっているとそれを身をもって感じる。
ペーパーレスやデジタル化が加速する中、文具に目を向ける者も少なくなったがいなくなったわけではない。
20年前、ある青年がウチを訪れて1本の万年筆に恋をした。
彼はそれから10年間毎日訪れては万年筆を眺めていた。そんなに欲しいのなら後払いで譲ってやろうかとも思った。
彼はその万年筆に選ばれたようだ。10年。なけなしの金を集め、やっと万年筆を手に入れた時の表情は見ているこっちも嬉しくなった。
本当はその万年筆、セットでもっと高いものだった。だが儂は彼の為にバラで売る事を決意した。
儂がここまでやったんだ。その万年筆、大切にするんだよ。

そして今日、その彼が10年ぶりにウチを訪れた。
あの時買えなかった、万年筆のセットを売って下さいと言ってきた。
残りの皆も彼に恋をしていたんだと今になって気が付いた。
公開:22/06/06 20:39

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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