決済コード

さあ、今日は勝負だ。大事なクライアントへのプレゼン。資料も調査し説得力のあるパワーポイントも作った。準備は万全。契約を勝ち取る自信はある。約束の時間まで30分。ビルのロビーで待つうちに緊張してきた。少し気持ちをほぐしたい。俺はスマホで「気晴らしアプリ」を開いて入力するとビルを出て近くの公園へ急いだ。
公園のベンチには清楚なワンピース姿の若い女性。俺のタイプ。目が合う。立ち上がった彼女と俺は挨拶もそこそこに緑の濃い小径を散歩する。都会の真ん中にあってここは喧騒がぱったりと止む。彼女の手を握って歩きながら、昨日の大谷翔平は凄かったね、とか会話をかわす。周りに人はいない。大きな樹の幹を背に立ち止まると、俺は彼女を抱きしめる。熱い息づかい、柔らかな弾力を確かめて抱擁を終えるとピッと電子音。彼女のうなじには小さなバーコードのタトゥ。俺はスマホを重ねる。ピピピッと決済完了。さあ、ビルに戻ろう。