バラと万年筆

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万年筆に刺された桃を口にする。普段は厳しい担当編集者が今日ばかりは優しい。夏風邪を引いてしまった私を見舞い、桃を切っては口に運んでくれる。
あ~んはこの歳になると少々気恥ずかしいが今は素直に甘えるとしよう。
不思議な桃だ。口にする度に見えるのは夫の浮気風景。今も病床に耽る私より浮気相手を優先し、楽しそうに閨を共にしている。まるで太宰治の人間失格だ。
そう言えば今日、6月19日は桜桃忌。これを見せているのはもしかして太宰?あり得る話だ。
桃はバラ科。その棘が私の心を苛む。同時に桜のように儚い新婚生活を思い出させた。
桜桃のように寄り添っていた頃が懐かしい。梅酒を飲んで酔っ払ったのか今ではとっくにアンバランス。いつ崩壊してもおかしくない。
恨み言の代わりにつぅと口の端から血が垂れる。赤黒いそれはまるでインクのよう。
私は桃を咀嚼すると万年筆に口の端の血を吸わせ今の気持ちを作品へと落とし込んだ。
公開:22/06/03 20:45

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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