サンジョルディの万年筆

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親しい人に本とバラの花を贈る、サンジョルディの日という記念日がある。
普段は花より団子の彼女だけれど、たまには目先が変わって良いだろう。旅先の本市で見つけた万年筆を一本、郵便受けへ入れておいた。
匂い立つ様な深紅の軸は、サンジョルディの日の元となった、伝説の聖ゲオルギウスが退治した、ドラゴンの血から生まれたバラの木から削り出したもので、インクにもそのドラゴンの血が使われており、とにかく世界に二つとない逸品だそうだ。
この変てこに長ったらしい売り文句が既にうさん臭いが、ファンタジー好きの彼女なら面白がってくれる気がした。

一年後の同じ日、我が家の郵便受けに本が一冊差し込んであった。
『バラと万年筆』と題された表紙に吹き出しつつ、今度は本物を贈るべく花屋へ走る。
表紙裏の著者近影で笑う彼女の手に、見覚えある深紅の万年筆。
バラのつぼみがほころぶ様に、彼女の才能もみごと花開いたわけだ。
その他
公開:22/05/30 17:21
月の音色 月の文学館 テーマ:バラと万年筆 朗読採用いただきました!

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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