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頬を伝う水は、もう涙なのか雨なのか分からない。飼い猫が車に轢かれて死んでしまった。横たわって血を流した猫の死体。私はそれを見つめていた。

雨の中、傘を持つ手が震える。命とは時に残酷に奪われてしまう。その現実を受け止めるまでに時間がかかった。

「にゃーにゃー」

足元には子猫がいた。その子猫は、どこか飼い猫に似ている。

「まさかね……?」
「そのまさかですにゃ。母がお世話になりました」
「しゃ、喋った!!」
「生前の母は、いつも私にあなた様との楽しい思い出を語ってくださいました。雪奈様、お会いできて嬉しいですにゃ」
「これは夢?」
「夢だと思ってくれてもいいですにゃ。私が喋れるのは、今だけ。ほんの一瞬の間だけの奇跡なのです。では私はこれで」
「あなたはどこへ?」
「野良猫ですから。自由気ままに」
「だったらうち来る?」

そんな不思議な出会いをした子猫。今はもう喋らない。
公開:22/05/31 09:12

富本アキユ( 日本 )

カクヨムにも小説を投稿してます。
Twitterは@book_Akiyu

・SSG投稿作品1500作品突破

・作詞を担当
https://youtu.be/OtczLkK6-8c

・葉月のりこ様YouTubeチャンネル『ショートショート朗読ボックス』~ショートショートガーデンより~の動画内で江頭楓様より『睡眠旅人』を朗読して頂きました。

https://youtu.be/frouU2nCPYI

・魔法のiらんど大賞2021小説大賞。大人恋愛部門「彼女の作り方」が予選通過

〇サウンドノベルゲーム版作品(無料プレイ可)

ブラウン・シュガー
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