望貌岬

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「ボーボー岬に行こうよ」彼女が言った。
「ボーボーって?」
「容貌の貌を望む岬」
ここは彼女の故郷。観光地を一通り回ったあとだ。二人は岬に行った。
小高い半島の荒れた道を登る。訪れる人は少なく草が伸び放題だ。登り切るとすっぱりとした海の水平線が見えた。
「ここが望貌岬」彼女は僕に小さな岩の上に立てと言う。岩に立って沖を眺めた。広がる海とよく晴れた空。見ていると青空に小さな積雲が膨らんで形になる。人の顔、間違いなく僕の顔だ!
「ねえ見えたでしょ」彼女が言う。
「そこから見る人の顔の雲が出るのよ」
「望貌岬!」
「わたしも上るわ?」彼女も岩の上に上がった。狭い岩の上で僕は彼女の腰に腕を回した。沖に雲は二つ現れた。僕と彼女の顔の雲。僕たちが顔を近づけると雲も互いに寄った。僕が彼女にキスをすると二つの雲もぴったりと合わさった。サンセットだ。キスをしながら見ると二つの雲は夕陽に赤く染まりはじめた。
その他
公開:22/05/27 15:52

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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