ゲーテッド

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八歳の誕生日を迎えたばかりの楓は生まれた時からマンションの敷地の外に出たことはなかった。両親はセキュリティを重視してこのマンションを選んだのだ。外とは柵で区切られており、警備員が常時監視していた。感染症の蔓延で日本のライフスタイルも変わり、学校教育も自宅から受けられるようになっていた。母は日用品や食料をデリバリーで購入していた。父も敷地外に行くのはごく稀であった。

楓はマンション敷地内の森に青い鳥を見つけた。それを追って森の中を分け入っていくと、マンションの柵に来てしまった。楓が初めて見る柵の外はまるで知らない世界だった。街は貧しく荒れ果て、道路に寝そべっている浮浪者が何人もいた。そのうちの一人に睨まれた。

警備員が叫んだ。「お嬢さま。柵に近づいてはいけません」
浮浪者が楓を指さして笑った。「柵じゃねえよ。檻だよ」

近くの木に隠れていた青い鳥が飛び立ち、外の広い世界に消えていった。
SF
公開:22/05/29 08:35

ドクターK( 東京 )

東京大学を卒業。現在は教育職。酒と美食とサッカーを愛する。年齢不詳。

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