魔王転生

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 朝焼けの禍々しさが好きだ。弱々しい青空、どす黒い雲。永遠の闇と地獄の業火が支配する前の世界では考えられない、今この時に、天の頂を犯すためだけに調合された特別な輝きが、空と雲を毒々しく染め上げる。亡者の大きく開かれた口から迸る無言の悲鳴……は、鳥の囀りで聞こえないけど。でも、宇宙の理が変われば、魔王の趣味だって変わる。名前も教えてくれなかった勇者が私の心臓を貫いた、瞬間、あっけなく新しい生は始まった。ほかの魔王が支配する、まったく新しい世界で。
 この世界の魔王がじりじりと、地平線の向こうから顔を覗かせる。東の空から姿を現す、生きとし生けるもの全てを統べる、無愛想な灼熱の球。お前の業火はいつ地上を焼き尽くす? 75億年後? それまでお前を倒す勇者は現れないのか?
 おはよう。魔王同士でしか通じない囁き声で挨拶し、自転車のペダルを踏んで朝練に向かう。お前も、早くやっつけてもらえばいいのに。
その他
公開:22/05/28 20:00

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