野生の百合

　退屈な授業はさぼってもいいって教えてくれたのは、君だった。学園の敷地外、静かで薄暗い森、二人きりでいるだけのことが、特別意味のあることに思えた。
　君に構うなと皆忠告した。園芸部の子は君を憎んでさえいた。温室を壊して、花を枯らした犯人だから。
　園芸部も温室も嫌いだ、と君はつぶやく。花の名前をプレートに書いて、その下に意味ありげな花言葉。あんなの、花と絆がない奴のごまかしだ。
　木漏れ日の下、百合がつぼみをつけていた。事もなげに、君は手折った。煙草を吸う不良っぽく、茎を咥える。
　つぼみが疼く。膨らみ始める。錯覚じゃない。何十倍速みたいに、花びらが、みるみる口を開けていく。驚く私の目の前で、真っ白な百合の花が咲き誇り、君は得意げに微笑んだ。
　私は手を伸ばし、君の唇から花を奪った。
　だけど触れた途端、百合の花弁はばらばらと散って、私が捕まえたのは、汚いおしべと、汚れためしべだけだった。