No.01『靴』

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世界にひとつしかない靴があるという。
靴屋の店先で話を聞くが
ところが、どこにもそんな靴は売ってない。

仕方ないので、鞣し革の靴で旅に出た。
トランクいっぱいの下着と着替えを持って、
少しのお金と出会った人に配る花を持って
旅に出た。

ずいぶん私も年老いた、
年老いてから気づいた。

世界にひとつしかない靴とは、
自分のこの鞣し革の靴なのではないかと。

世界中を歩き回って、
底がすり減るまで歩いた靴は、
なるほど世界にひとつしかない靴といえる。

それを教えてくれたのは、
小さな子供だった。

川沿いで出会った靴磨きの子供が、
『おじさん、いい靴だね磨かせてよ』

と。

だから私は、今度生まれる孫には、
靴をプレゼントしようと思う。

文字通りただの靴を。
それが、君が履くことによって、
世界にひとつしかない靴になるだろう。
SF
公開:22/05/22 18:10

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