ヒーローの家族

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 お前に特別な力があると知って、戸惑いつつも最初は嬉しかった。超能力で空を飛び、手で触れず車を分解した。成長し、力の制御を覚えた。優しい子だった。
 隠れて正義の活動をした時、お前を叱った。特別な力があっても、漫画のように生きる必要はない。
 本当はただ、お前が心配だった。
 お前は出ていった。
 今のお前の姿はテレビや動画でしか知らない。だが世界中の悪事や戦争に、人類の尻拭いをするようお前が一人で戦うことに私たちは耐えられない。正義がお前にそれを強いるなら、そんなものはいらない。
 分かっている。私たちはお前の全く望んでいないものを押し付けている。ヒーローは悪を粉砕する。だが悪役はおぞましい欲望を抱え、何度でもヒーローの前に現れる。私たちの存在、私たちの愛は、そのようなものになってしまった。それでもお前の居場所はまだこの家にある。部屋もそのまま取ってある。
 いつか帰ってきて欲しい。
その他
公開:22/05/18 20:00

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