神という仮説

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ラプラスはナポレオン陛下に書物を献呈した昔のことを思い出していた。陛下は彼に尋ねた。
「先生の本には宇宙のありとあらゆることについて書かれてある。だが、神のことに一切触れていないのはどういうわけか」
ラプラスは答えた。
「陛下。私はそのような仮説を必要としないのです」

突然、神が詰問した。
「それで今はどうだ。私は何者だ。この私は仮説だと言うのか」
どうやら私は死んだらしい、とラプラスは気づいた。
「私が見ている幻に過ぎません」
「ならば、お前自身が生前、本心では見たがっていたものなのだろう」
「違います。脳の中の現象といえども法則に従って動いているに過ぎないのです。宇宙の全ての原子の位置と速度がわかれば、その後の宇宙は法則に従って動いているだけです。人間の思考も。歴史さえも」

もはや、神は何も語らなかった。その姿が徐々に消えていった。周りが暗くなる。ラプラスも深い闇に消えていった。
SF
公開:22/05/20 20:20

ドクターK( 東京 )

東京大学を卒業。現在は教育職。酒と美食とサッカーを愛する。年齢不詳。

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