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控室で待っているとナースが呼びにきた。案内されるままナースについてゆくとドアが開いてステージの脇に出る。「先生、お願いします」とステージに送られた。演台に立って眺めると会場の席は埋まっている。八十人ほど、全員が白衣を着た女性、女医である。そういえば本日の講演は「皮膚科における擬似信号」だった。俺は原稿を持たない主義だから演台には何もない。話し始めた。女医たちの熱い視線を感じ、空気がゆらめくように押し寄せてくる。そして何を話しても周波数が合わなくて会場の空気がずれてゆく。ずれが振幅を拡大してゆく。思いつきで話した内容は覚えていない。気がつくと万雷の拍手。俺は感無量で「ありがとう。女医の皆さん」と言うと前列の一人が立ち上がって言う「私たちは女医ではありません。女医は先生でしょ」。俺は白衣を着ている。髪の毛が流れるように長い。顔にファンデーションの匂いがする。そうか、俺は女医なのだと悟った。
その他
公開:22/05/20 08:37
2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。
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