犯人補正

私には今、犯人補正がかかっている。
これがある限り、犯行中の私は全身黒タイツ姿。スタイルや声も変化し、個人を特定できない仕様となっている。
便利なものではあるが名探偵に見られてしまうと犯人補正はすぐに解けてしまう。だからさっさと仕事を済ませておこう。
明日、部長の最後となる日が楽しみだ。

部長が口を押える。声も出ないようだ。
目を見開き、涙が零れている。
そうだ！その表情が見たかったんだ！
定年退職する部長が、感動で涙するその姿を！
どうです部長？嫌われ役を自ら買って出ていた事、皆気付いていたんですよ。
部長の厳しさの中にある優しさに誰もが助けられていたんですよ。
私もその一人です。
部長に泣かされていた若き日。いつか貴方を泣かしてやろうと心に決めていました。
今日、それが叶ったんです。
「企画者は誰だ！」と犯人探しをする部長を見て、未だ補正のかかっている私は内心、笑いが止まらなかった。