不審者にご注意

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汗ばんだTシャツが肌にピタッとまとわりつくあの嫌な感覚を覚えながら無人のエレベーターに飛び乗った。寿司の宅配を終えて一息ついたのも束の間、中にある鏡を見ると白シャツが裏返しになっているではないか。両肩に内側の縫い目がくっきり浮き出ている。ああ、みっともない。

だが、次の配達が控えていた。効率よく追加報酬を受け取るにはトイレに寄って着替える暇などなかった。平日の昼間だし、誰も乗り込んでこないだろうーーそんな甘えがあったことは認める。でも、時は金なり。ササッと済ませてしまおう。

突然ドアが開くやいなや「キャー!」と甲高い声を浴びせられた。突発的に右手に持っていた汗臭いシャツを声の主の女性の口に詰め込んだ。頭が混乱してよく覚えていないが、半裸の男による昼下がりの凶行のように映ったかもしれない。でも、信じてほしい。シャツの表裏を正したかっただけなんだ。

気づけば、交番で一人うなだれていた。
ミステリー・推理
公開:22/01/09 21:14
更新:22/01/09 21:15
事件 独白 ハプニング

アカサカ・タカシ( 米国 )

2022年から米国在住。

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