歴史買取人

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キャンパスを歩いていると、アルバイトの募集が貼ってあった。条件には“口の堅い方”とだけあり、高額な報酬が記載されていた。口が堅い以前に、話す友達もいない自分には、うってつけだと思った。

訪ねてみると、すぐに社長と面接が行われた。業務は、故人の遺品の中から日記を買い受けることと、その内容をデータベース化することだという。私は、この事業の目的を聞いた。社長は「表舞台に出なかった人々の歴史を記録として残したいのだ。公に書き残された以外の歴史をね。それでこそフェアな歴史と言えるだろう」

50年以上日記を書き続けていた祖父を思い出した。祖父は養蜂家だったから、生活記録以外に養蜂に関することも綿密に書いていたはずだった。しかし、祖母は、これらをあっさり燃やしてしまった。

私は、この事業の意義に共感し、アルバイトから、そのまま就職した。今日も、この地上に確かにあった“歴史”を遺す仕事をしている。
その他
公開:22/01/10 22:52
更新:22/01/10 22:53

kidohe

「蝋燭」が人生初作品、初投稿です。
よろしくお願いします。

普段は、韓国(アジア)ドラマ・映画の字幕監修者として働いています。

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