時計と記憶

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亡くなった父の遺品整理をしていると古びた懐中時計が出てきた。
「アンティークショップに持って行けば売れそうだな…」と呟き、上部の開蓋ボタンを押す。
…開かない。どうやら壊れているようだ。中から音もしないしガラクタか…
「いらないならそれ、ちょうだい」
捨てようと思った時計を娘が欲しがった。こんなもので良ければと手渡す。
娘が嬉しそうに開蓋ボタンを押すとカパッと懐中時計の蓋が開いた。
「うわ~。すごくきれ~」
カチカチと音を立てる古びた時計。精緻なデザインにやはりこれは高く売れると思い、娘から時計を取り上げる。すると時計は何故か止まってしまった。
娘に返す。時計は何故か動き始める。何で?
困惑していると母が優しく微笑み、答えた。
「それ、私と夫の思い出の品よ。私達の宝物。でもそう…夫は時計を貴方に託したのね」
娘の頭を撫でる母。
娘はまるで使い方を知っているかのように時計を弄びながら笑った。
公開:22/01/10 20:45

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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