ズボンのチャック

ズボンのチャック…社会の窓と言われる場所。
小学校の頃、俺はズボンのサイドポケットにわざと穴を開け、そこに手を突っ込み、社会の窓から手を出してはよく遊んでいた。
何であれが面白かったのか覚えていない。ただ、やらなくなった理由なら覚えている。
あれは授業中、消しゴムを落としてしまった時の事だ。
開けっ放しの社会の窓から、俺の手そっくりな手が出てきて消しゴムを拾ってくれた。
その手は俺の左手に消しゴムを返してくれた。俺は右手に鉛筆を握りしめそれを呆然と見つめていた。
その手は消しゴムを返すとまた社会の窓へと戻っていった。
あれ以来…俺は怖くて社会の窓を開けられないでいる…