血糊監督

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17回目のNGがかかった。スタッフにも疲労が滲む。何より可哀想なのは、猛吹雪のなかパンツ一丁で倒れている死体役の俳優だろう。
美大を出てVシネマの世界で名を挙げたT監督は、血糊へのこだわりがすさまじい。健康的な若者には水のようにさらさらな血糊を、贅を極めた老人には片栗粉で限界までとろみをつけた血糊を使う。自他共に認める「血糊監督」であった。
いま撮影しているのはサスペンスミステリである。被害者は64歳の男。12人の愛人のうちの1人に刺殺され、青森の雪山に捨てられるという設定だ。年齢的には老人だが、パワフルで若々しい肉体。これを血糊でどう表現するかでT監督は悩んでいた。
ふと死体役の俳優が目にとまった。一応コートを着せてもらっているが、震えが止まらず鼻水すらも凍りついてしまっている。
「そうか…っ!」
雪山だと血が凍るから流れ方は関係ないね!という監督の言葉に、全員が膝から崩れ落ちた。
公開:22/01/04 19:00
更新:22/01/03 22:48
映画 監督

エス氏( 青森 )

落語とか漫才とかが好きなので、クスッと笑えてオチが綺麗なものを書こうと頑張っています。
よろしくお願いします。

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