幽霊部品

近所のホームセンターでA社のワークチェア組み立てキットを買ってきた。しかし、いざ組み立てようと説明書を確認してみると、足りない部品が一つある。
俺はカスタマーセンターに電話してみた。
「あ、幽霊部品スね、それ…」
若い男が答えた。
安全基準を満たすために書類には記載しているが、キットには入れていない部品。品質保証マークを掲げつつ低価格をキープするための措置で、普通に使うぶんには無くても問題ない。そういう部品のことを、A社では幽霊部品と呼んでいるのだという。
「ほら、学生のときの部活動でも籍だけ置いてて活動してない奴いたでしょ、あれと似てるんで」
男は悪びれる様子もなく言う。ふと、俺のように疑問に思って連絡してくる客はいないのかと気になった。
「へへ、大丈夫スよ。今日はたまたま俺が出ましたけど、ここ、ふだんは“大変混み合っております”ってアナウンスが流れるだけの幽霊会社スから」