管理人の声量

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駐車場の餅つきが激しすぎる。
年が明けて午前2時。居住者からそんな苦情が届いた。ここは幻聴者だけが入居できる登り窯スタイルのマンション《聴こえるよね松戸駅前》。私は登り窯の低層部で住み込みの管理人をしている。どうせ幻聴だから放っておきなよ、と妻のように育った犬は言うが、私は着古したレオタードを捨てるついでに地下駐車場へと向かった。
松戸に配属される前は《見えるよね鯖江市中央》で副管理人をしていたからよくわかる。地下駐車場には風に吹かれた枯葉が集まるようにおかしな音が漂う。ドリフターズのメンバーが次々に乾杯を叫ぶやまびこや、世界中の獣が一斉に肉を咀嚼するくちゃり音、ああ、とろみのある潮騒が餅つきに聴こえぬこともない。
私が音を掃除していると見知らぬ少年が腕を掴み「店内で里芋を剥くのはおやめなさい」と言う。よく見ると少年は父によく似たパイロンで、だから私はパパって呼んだの。管理人らしく小声で。
公開:22/01/05 10:04

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