酒の花

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S商事の創立20周年パーティは大成功だった。特に好評だったのが余興の「酒の花」である。

会場前方のステージには高さ3メートルほどもある桜の裸木の絵。ステージ中央に酒樽が運び込まれ、袖から袴姿の小柄な老人が歩み出る。
琵琶の音に合わせ、老人が絵に向かって筆を振るう。時折酒樽に筆を浸す。裸木に酒の花を咲かせているのだ。
花は描いたはじから揮発してゆき、後には芳醇な酒の香だけが残る。桜の花が散ってゆくようで、大変美しく風情があった。感極まって涙を流す者もいた。

ところで、S商事の佐倉社長は有名なドケチであった。自分は絵を描いてくれと頼んだのに絵は残っていない。納品されていないものに金を払う謂れはないと主張した。老人は激怒し、応接室にあった裸木の絵をビリビリに引き裂いて立ち去ったという。

間もなくS商事の業績はじわじわと悪化した。社員は1人また1人と去った。まるで風にさらわれてゆくように。
その他
公開:22/01/01 23:00
更新:22/01/01 21:10

エス氏( 青森 )

落語とか漫才とかが好きなので、クスッと笑えてオチが綺麗なものを書こうと頑張っています。
よろしくお願いします。

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