初夢クリニック

「変な初夢です」
「詳しく話して下さい」白衣の女医は正視して言った。
「夢の中で僕はオーケストラの一員。地方公演のステージに上がると僕の楽器だけがない。席もない。演奏は始まり僕は立ったままでいる・・」
「不安な夢です」
「はい。会社でリストラがありますが僕は三十代で仕事もできるので対象にはなりません。仕事の不安はないです」
「楽器は何を？」
「夢ではチェロのパートです」
女医は思案を巡らせると、
「チェロは妻。貴方の奥様がいなくなる離婚ですね」
「えっ、僕たちは仲が良い。妻が出て行くなんて」
「出て行くのは貴方です。ステージの席、貴方には居場所がなくなる」
「ええっ、原因は？」
「最近、旅行にいきましたね。しかも不倫旅行」
「はっ、その通りです。どうしてそれが」
「地方公演は後ろめたい旅行。誰かとの不倫で夫婦の修復は絶望的。音楽が続くのは離婚手続きの時間、貴方は立っているしかないのです」