耳のように消える

誰の仕業だろう。私が目を離すたびに目の前にあるキクラゲラーメンのキクラゲだけが減ってゆく。
今日は富山市内にあるライブハウスで岩魚森さんの臨終の集いが開かれている。岩魚森さんは「男はつらいよ」の大ファンで、全国のロケ地を巡るうち富山では撮影されていないことを知った。全四十八作。ウィーンでも撮影しているのに富山には来ていないその悲しさに同情したのか、彼は終焉の地に富山を選んだ。
ご機嫌なパーカッションとホーンセクションが別れの瞬間を今か今かと盛り上げるが思うようにはいかない。甘い読経。ザラメのおかき。参列者は静かに臨終待ちのラーメンを啜る。
岩魚森さんはキクラゲを海藻だと信じていた。私はついに真実を伝えぬまま今日をむかえた。鮎乃森さんによれば寅さんは高知や埼玉にも行っていないらしい。ここにいる誰もが彼に伝え忘れたことがある。ステージで眠る岩魚のような岩魚森さん。
またひとつキクラゲが減った。