雪中花

雪原の湖畔に男は佇んでいた。
陽射しは澄んだ空気を抜けて、乾いた風が細波立てている。
一匹の小鳥が飛び回って囀っている。　その声と無邪気さは懐かしく、微笑むばかりだ。
少しばかり湖面に近づくと、そこにスウッと凛々しい魚がやってきた。
どうだい綺麗だろうと言わんばかりにヒラヒラとその姿を見せびらかした。
男はただ、ほうっと見惚れていた。
そうだ、そんなダンスを踊っていたんだな。
湖岸から黄色い花の群れの囁きが聞こえた。
「ここに咲けば、いつでも自分の美しい姿が、湖面に映るの」
男はニコリと微笑んで、車椅子に手をかけた。
湖面に映る自分の顔に重なるように……。
もう一度、魚達と踊ろうと思った。